布川事件4
④目撃証言の信頼性
この事件では、ある男性の目撃証言が有罪の決め手になった。しかし、驚くべきことに、この目撃証言自体が、警察と検察が誘導して作り上げた可能性が高いのだ。この男性は、午後7時半頃、配達のために被害者の家の前をバイクで通り過ぎた際、「二人の男を目撃した」と。また、帰りに再びこの道を通ったときには、家の中から悲鳴の様な叫び声を聞いたと証言した。だが、この男性は始めからこのように話していたわけではない。事件発生から4日後の捜査報告書によれば、この男性は、聞込みの刑事に対し、事件のことは一言も語っていない。
具体的には、刑事は、「往復途中における不審者等の目撃については、聞き込みを得られませんでした」といの証言をしている。
しかし、その後男性は、杉山さん、桜井さんが逮捕され再び刑事が訪れたときに、次のように語っている、「道路上に背の高い、一米八十糎位、頭髪短い体のがっちりした男と背は一米六十糎位の低い男でガッチリした格好の男の二人が立っていた」と。
この男性は、続けて、「一人は杉山に似ていた。もう一人はその時には、分からなかったが後で新聞を見て桜井だと分かった」と述べている。
毎日放送の映像’09 逃げる司法は、番組において、この目撃者A氏を訪ねている。そのやりとりは次のとおりだ。
目撃者A氏「やっていなければね、言わないですよ。最初からね、何も言わない」
Q、「自白なんかしない?」 目撃者A氏「しない、しない。絶対しない。警察なんかに捕まったって絶対に言わないですよ」
Q、「自白するのは犯人だから?」 目撃者A氏「そう、そう。絶対やっていないんだったら、そんなことを言わないですよ」 |
(「映像’09 逃げる司法」 2009/9/20 毎日放送より)
この目撃者A氏の「犯人でなければ自白なんかしない」「自白するから犯人だ」という論理は、日本の密室の中での過酷な取り調べの実態を知らない無知な論理である。今までの冤罪の歴史が、それを証明しているのではないか。ちなみにこの男性は、法廷でも証言しており、これが有罪を決める根拠になっているのだ。
さらに重要なことがある。実は、検察は、別の目撃者の存在を隠し続けていたのだ。
事件当日の事件現場である被害者宅の表通りに、二人の男が立っていたのを目撃していた女性Bさんがいたのである。この女性は、事件当日の午後7時頃、自転車で被害者の家を訪れたが先客がいたので、そのまま帰宅したというのだ。一人は、庭先で立ち話をしていたと。そしてもう一人は玄関の脇に隠れるようにして立っていた。そして、それら男は、桜井さんでも杉山さんでもなかったと。
同番組の中での、この女性Bさんに対する取材でのやりとりは、以下のとおりである。
Q、「こっちは暗いところに身を潜めていたという感じですか」 目撃者Bさん「なんだか、よっかかっているみたいな」
Q、「家の塀に」 目撃者Bさん「うん、ほとんど入り口だね」
Q、「相当、ここは暗い?」 目撃者Bさん「顔が分かったんだから、あれ、○○さんだなというのがわかったんだよ、その時よ」
Q、「顔が見えた?」 目撃者Bさん「うん、あれっと思ったんだよ。なんでここに立ってんのかなと思ってた」
Q、「警察にも言ったんですね」 目撃者Bさん「うん、言ったことあるよ」 |
(「映像’09 逃げる司法」 2009/9/20 毎日放送より)
驚くべきことにこの女性Bさんが明かした名前は、二人とも全く別の人物だったのだ。しかも、この供述も未だに隠されたままになっている。これもとんでもない話としか言いようがない。
同番組の取材において、この女性目撃者の証言を得た後に、桜井さんと杉山さんを見たと証言した男性目撃者A氏をもう一度訪ねてインタビューしたやりとりが、以下のとおりである。
Q、「最初から言わなかったという理由は何か」 目撃者A氏「確信がないでしょうよ。だから言えないのよ。本当に見たわけじゃないし」
Q、「間違う可能性もあると」 目撃者A氏「うん、ある。完全に見た訳じゃないから。間違った場合もあるでしょうよ。人間だからね。申し訳ないけど、それしかいえないのよ」 |
(「映像’09 逃げる司法」 2009/9/20 毎日放送より)
「完全に見たわけではない」「間違った場合もある」と・・・。男性目撃者A氏の証言が揺らいだ。これでは到底殺人事件の目撃証言として裁判で採用されないのではないと言うほどの内容だ。この目撃証言が証拠とされ、無期懲役を言い渡されたらたまったものではないだろう。