飯塚事件2 その5
3、再審以降、現在に至るまで 前半
2009年10月28日に再審請求審が始まった。
弁護団が再審に向けてポイントにしたのは、八丁峠の目撃証言とDNA型鑑定だった。死刑判決の柱はDNA鑑定と目撃証言、これは誰が見てもはっきりしていたので、この2点について注目したわけである。
久間さんの死刑判決に採用されたDNA型鑑定は、MCT118法。当時警察庁・科学警察研究所が導入したばかりの鑑定法だった。
1990年に栃木県で女児が殺害された足利事件、これはその後無罪判決が出た冤罪事件である。この事件でもMCT118法でDNA型鑑定が行われた。
足利事件については、以前以下の記事で紹介している。参照下さい。
2009年6月4日に足利事件の管家利和さんが釈放された。
管家利和さん
「私は、今日釈放になりましたけど本当にうれしく思います。当時、急に私は犯人にされました。自分としては全く身に覚えがありません。私は無実で犯人ではありません。」
この足利事件は、DNA型の再鑑定によって無罪が言い渡された。判決では足利事件におけるMCT118法には証拠能力がないとされた。以前の記事でも紹介したが、何よりおかしいのはこの足利事件について再鑑定されるとの報道がなされた12日後に、久間さんの死刑が執行された点である。同じ鑑定法で同じ鑑定人であった足利事件のDNA鑑定に疑問が持たれていたにも関わらず、久間さんの死刑が執行された点である。
2008年10月16日 「足利事件が再鑑定へ」の報道がなされる
2008年10月28日 飯塚事件 久間さんの死刑執行
2009年 4月20日 足利事件 再鑑定で一致せず 当時の鑑定が誤りだったと認定
2009年 6月4日 足利事件の管家利和さん、釈放
これはどう考えても理解できるものではない。なぜそんな取り返しのつかないことをしたのか・・・。
足利事件での管家さんの無罪を証明する鑑定を行ったDNA型鑑定の専門家である日本大学名誉教授の押田茂實教授は、このMCT118法やそれを使っていた科警研技官について以下のように語っている。
「MCT118、この方法だと(確率)何十分の一とか(で一致)ということが、だんだんあとになって分かってきました。ですから言ってみればこれは試作車の段階ですよ。これを証拠に出してそしてこれがあるから死刑だとかこれがあるから無期懲役だというふうに使うのはちょっといかがなものかなという時期だと思います。こんなもので鑑定するなよと。死刑になるかどうかですから。一生の間に一人か二人か、そのくらいしかないわけですから。そこに命懸けて自分の地位を懸けるのこれで」って(科警研技官に)言います。」
番組スタッフ
「専門家の目から見るとそのぐらいあやふやな・・・」
押田茂實
「いや、これはもうとてもじゃないけど許すわけにはいかないですよ。」
2012年9月7日に科警研に保管されていたDNA型鑑定のネガフィルムについて弁護団による撮影が許された。
そしてその1ヶ月半後の2012年10月25日、弁護団が専門家の検証を経て、弁護団が記者会見を開いた。
徳田弁護士
「我々としてはですけど、科警研の鑑定書に添付されていた写真というのは、加工されている、控えめにいうとですね。我々、弁護人から見ると、改ざんされている、もしくは、ねつ造されているというふうに解釈せざるを得ないではないかというふうに考えています。」
科警研は赤点で示した場所に久間さんと同じDNA型があるとした。しかし、専門家がネガフィルムを確認するとそのDNA型は不鮮明で判別不能とされた。
徳田弁護士
「赤いペンでここにあるという形で説明をしてしまうとラクですよね。見えてないですけど。右側の写真には見えてないわけです。見えてないけどここにあると赤いペンであるんですというふうに説明をしているわけです。ネガでよく見てみると非常に曖昧だと。非常に読み方が難しい部分を赤ペンで書くことによってスルーしているわけです。ありましたと。」
さらにネガフィルムは切り取られていたと。その切り取られて使われていなかった部分に真犯人のDNA型が写っている可能性があると弁護団は主張している。
徳田弁護士
「この事件は、強姦致死、殺人となっているわけですから、膣内から被害者でも久間さんのものでもない物が出てきたとすれば、それは犯人以外にあり得ないではないかと。
これらを隠すために切り取って暗くしたと弁護団は主張している。
徳田弁護士
「一番、私が皆さんに理解して欲しいのは何でこんな切り取りをしたかということですよ。それはそんなに重要なものではなくて説明が可能であれば、ネガを焼き付けたわけですから、そのまま出せばいいわけですよね。それで説明すればいいわけですよ。それをそのポジ写真をカットして鑑定書に付けて、まるでそんなようなものが無かったような形で証拠として出してきている。なぜそんなことをするのか。我々が一番憤っているのは、こういう形で証拠写真に手を入れてる、その結果として死刑判決になるまで確定するまでの間に、この証拠がおかしいんじゃないかということを争う機会を奪っているわけですよね。だから私どもはこのネガフィルムを見てみてこういうことが分かったという以上に憤っているのは、こんな工作をしていいのかということですよ。」
これに対して、検察は弁護団の提示したネガフィルムの改ざんを否定した。
2012年11月21日に弁護団会議が行われた。弁護団が真犯人のDNA型が写っている可能性があると主張したバンドについて、検察の言い分を新聞各紙(11月19日頃に検察が記者相手に説明したと思われる)が報じた。その報道内容について弁護団が検討した。
そして徳田弁護士が以下のように語っている。
「これエキスラバンドだと。まあ、要するにエラーだと。これは人の型ではないと言うことを確認したということを記者会見して検察官が発表したわけです。専門家によるとエキストラバンド、これはまあエラーだと。エキストラバンドは鑑定の課程で出現することがある無関係な反応で、試料を複数回鑑定することで正規の型かどうか判別することができる。検察側によると当時鑑定した警察庁科学警察研究所の技官二人が複数回の鑑定で無関係であることを確認していたという。とこう言っているんですよ。」
番組スタッフ
「その先、先生がおっしゃっていた真犯人のだと、カットされていた上にあるものはそもそもエラーだと。それは確認済みですよと」
徳田弁護士
「私達それを見てね、あーそうですかと、じゃそれを確認したそれを出して下さいと。複数回やったんだというなら、これ以外の写真があるはずだからそれを出してください。それを出せばエラーだということが分かるはずだと。無いって言うんですよ。出してないんですよ、だから。こういうことを偉そうに言っているけど複数回実験してエラーだということを確認したとその証拠全然無いんです。でそれを聞いたら何回あなたたちは実験したのかと。3回というわけですよ。じゃ、これ1回目の写真があるけど他の2回の写真はどこにあるんだと。今は無いって・・・」
この検察の説明についてDNA型鑑定専門家である押田教授は以下のように語っている。
押田氏
「これ一枚しか無いんですかと。同じことをやってもこうだったんですかと。いや、検査法がおかしいっていうんだったらまたここに(エラーが)出てくるはずだから。じゃあ、もう一枚(写真を)出しなさいよ。何で出てこないと。隠しているからでしょ。こう、私だったら言います。だから一回こっきりで死刑なんてやっていいんですかと。私はいつも言ってるんですけどDNA型鑑定を含めた鑑定というのはいつ、どこで、誰がやっても同じ結果になる。私がやらなくても他の人がやっても同じ結果になりますよと。だから書類に書いてるわけです。それが崩れちゃったら、これは鑑定じゃないんじゃないんですかと、僕はそういうふうに思います」
弁護団、押田教授の意見は、理解しやすいし、理にかなっていると思う。
2013年1月16日に弁護団はDNA型鑑定の試料と実験データが残されていないか、検察に開示を求めた。しかし、検察から来た回答は、DNA型鑑定の試料と実験データは存在しないとのことだった。
検察からの説明について弁護団が分かりやすく説明した。徳田氏、岩田氏の説明は以下の通りである。
徳田靖之氏
「技官が処分したとかそういうものは作っていないとか、いずれにしてもこちらが要求した大半はないという回答です。」
岩田務氏
「理由が納得いかないのは鑑定書に出した写真以外のネガフィルム、ポジフィルムは、検査をした(科警研)技官が個人的に撮った写真やネガフィルムだった。そんなことって、あのー、実験は一連のもので、それで写真はずっと撮るはずでその中で一番いいのを鑑定書に使ったと思われるんですね。その中の鑑定書のものだけ税金を使った公的なもので、残りの写真は全部技官の個人のものだと。だから技官が退職した時に廃棄したものと思われると。だからその技官に確認したというわけでもないし、そういうことでしょうという回答しか受けていません。この回答も全くおかしな回答であると思います。」
「実験ノートがあるのではないかと言うことですが、これについては、その技官が実験ノートを作っていたと。その技官が退官したときに廃棄したというふうな話を書いていました。ですけどその、これだけ重要な実験ノートですから、この作成した実験ノートは公的なものではないかと思います。本当に退職した時に破棄したということ自体が問題だと、証拠の棄滅ではないかと考えています。
スタッフ
「要するに検査した技官の私物だから、これはもうみんな捨てましたというふうなちょっと・・・」
押田氏
「それはもう公務員にあるまじき行為だと。私は、前半は国立大学にいましたから、国家公務員だったんですけど、警察の科学捜査研究所あるいは、科学警察研究所の人たちも全部国家公務員ですから、それは公務員にあるまじき行為だと思います。もうこれは懲罰の対象になると思います。何でそういうことをしないんですか。
鑑定ノートを捨てたら、実験、鑑定はどうやってやったのか分からなくなるじゃないですか。このケースも再鑑定をやれば、あなた嘘付いてるんじゃないですかと、真犯人じゃないですかというか、警察これでいいですかというふうになるか、一目瞭然に分かるはずです。今の技術だったら。何で一滴でもいいから残してくんないの。本当はあると思いますよ、私は。」