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狭山事件 その4

2、事件の考察 ③脅迫状の信憑性(文字能力、筆跡鑑定)

犯人が残した唯一の物的証拠は、脅迫状である。石川さんの家庭はとても貧しく、学校にもほとんど行けなかった。それ故、事件当時は石川さんは漢字はおろか平仮名もろくに書けなかった。

 

石川さんは、筆記用具も買えないから、学校に手ぶらで行き、勉強はほとんどしなかったのである。2010年5月、事件から47年後にようやく証拠の36点が検察側から開示された。

 

 

その中の一つに逮捕当日に石川さんが書いた上申書がある。テレビ朝日の「ニュースの記憶」が元文教大学文学部教授遠藤織枝氏に筆跡鑑定を依頼した。

 

その結果は、石川さんの上申書と脅迫状の2つは全然違う人が書いているとの鑑定結果を下した。

 

遠藤氏は、インタビューにこの様にコメントしている。

 

「この2つは違う人なの、全然違う人が書いているんだと思います」(遠藤氏)

(ニュースの記憶 テレビ朝日から)

遠藤氏は、二つの文章の違いに関して、例えば「た」の文字について以下のように解説している

 

「(石川さんの上申書)この「た」とこちらの「た」は違うでしょ。明らかにこれは一個一個力を入れて書いている。止めてます、終わりのところをね。」(遠藤氏)

(ニュースの記憶 テレビ朝日から)

「(脅迫状)こちらの人は、慣れているから続けて書けちゃう」(遠藤氏)

(ニュースの記憶 テレビ朝日から)

以上のように上申書の文字は、一個一個の線に力を入れて線の終わりを止めて書いてあると。それに対して脅迫状の文字は、文字を書くのに慣れているから続けて書いてあるということである。

 

 

脅迫状の漢字についても遠藤氏は、以下のように解説している

 

「万葉仮名と言うんですけど、こういう書き方をね。こういう当て字を書くのは、選んでるわけですね。すごいね、漢字の能力のある人ですよ、この人は」(遠藤氏)

(ニュースの記憶 テレビ朝日から)
(「知っていますか 狭山事件 一問一答 解放出版社」 より)
「事件」から
(「知っていますか 狭山事件 一問一答 解放出版社」から)

筆跡の違いは、漢字にもある。脅迫状を書いた人は、漢字を書く能力がある人である。また遠藤氏は、石川さんの上申書には、本文中にほぼ漢字が見られないことを指摘している。漢字の割合を比較すると、脅迫状が27%に対して上申書はわずか7%であった。

(「ニュースの記憶」 テレビ朝日から)

裁判所は、確定判決の中で、石川さんがあまり字を書けなかったことは認めている。しかし「石川さんの家にあった『リボン』という少女漫画雑誌を手本にして脅迫状を書いた。よって漢字の混じった脅迫状が書けた」と認定している。しかし、まずこの手本としたとされる『リボン』という少女漫画雑誌が、事件当時石川さんの家には無かったのである。3度の家宅捜索でも『リボン』は一切見つかっていない。

 

 さらに警察は『リボン』の中にどんな漢字が使われていたのかと調べ、捜査報告書を作っている。しかしその報告書には、脅迫状の中に使われている「刑札」の「刑」と「西武園」の「武」の漢字が無かったと書かれているのである。

 

 石川さんがあまり字を書けなかったこと、石川さんの家に少女漫画雑誌「リボン」が無かったこと、また脅迫状の中に使われている漢字で「リボン」の中で使われていない漢字が書かれていた事実からして、「リボン」を元に漢字の混じった脅迫状を石川さんが書けたとどうして言えるのだろうか。到底納得できる話ではない。

 

さらに脅迫状の謎は他にもある。

 

折り目のある脅迫状と封筒からは、発見者である被害者の兄と警察官の指紋だけが検出された。

 

犯行はすべて素手で行われたことになっており、これは検察側も認めている。ところが、犯人とされた石川さんの指紋は、この脅迫状の紙やそれが入っていた封筒のどこからも検出されていない。

 

これに疑問を抱いたのは、元栃木県警鑑識課の斎藤保氏である。斎藤氏は石川さんの供述と同じ手順で手紙を折り、封筒に入れ、当時の埼玉県警と同じ方法で指紋の検出実験を行った。

 

すると封筒のあちこちから多数の指紋が検出された。

(「ニュースの記憶」 テレビ朝日から)

以下の写真は、同じ実験を石川さん自身が行ったものである。あちらこちらに指紋がついているのは一目瞭然だ。つまり自白通りだとすれば、脅迫状から石川さんの指紋が出なければおかしなことになる。

(ニュースの記憶 テレビ朝日から)
(ニュースの記憶 テレビ朝日から)
(「ニュースの記憶」 テレビ朝日から)

脅迫状の筆跡鑑定に関しては、2018年1月に以下のような新鑑定が出されたのである。

 

有罪根拠の「筆跡」は別人 鑑定結果を高裁に提出

01/22 23:44

 

55年前に女子高生が殺害された、いわゆる「狭山事件」で、無期懲役が確定した男性の弁護団が、有罪の根拠にもなった筆跡は、別人のものだとする鑑定結果を東京高裁に提出した。

 石川一雄さんは、1963年に埼玉・狭山市で女子高生を殺害した罪などで、無期懲役が確定し、服役したあと仮釈放され、裁判のやり直しを求めている。

 

 女子高生宅に届いた脅迫状と、石川さんの筆跡が同一だと判断されたことが、有罪の根拠にもなっているが、弁護団は、コンピューターを使った新たな鑑定で、筆跡が99.9%の確率で異なることがわかったと主張している。

 

 東海大学の福江潔也教授は「明らかに脅迫状と上申書は、別人が書いたと考えないと不合理」と話した。

 

弁護団は、1月15日、この鑑定書を東京高裁に提出したという。「FNNニュース」より 

(2018年1月16日 「東京新聞」から)

狭山事件で新証拠 脅迫状筆跡“別人”は「当然」(2018/01/23 08:02)

55年前に女子高校生が殺害された「狭山事件」で、脅迫状が再審請求中の男性の筆跡とは別人であるとする弁護団の新たな鑑定書について、男性は「当然の結果だ」と話しました。

 石川一雄さん(79):「(当時)読み書きができない石川一雄が、脅迫状を書いたこと自体が元々、おかしかったと言われていたから当然の結果だと思っている」

 

http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000119258.html

狭山事件で新証拠 脅迫状筆跡“別人”は「当然」(18/01/23)

(2018年1月30日 「東京新聞」から)