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袴田事件 その4

袴田事件(以下①~⑤ 出典 袴田事件 - Wikipediaから抜粋)

①概要

1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で発生した強盗殺人放火事件、およびその裁判で死刑が確定していた袴田巌元被告が判決の冤罪を訴え、2014年3月27日に死刑及び拘置の執行停止並びに裁判の再審を命じる判決が(即時抗告審での審理中のため未確定)なされた事件。日本弁護士連合会が支援する再審事件である。

 

 

②経過

1966年6月30日

「有限会社王こがね味噌橋本藤作商店」専務の自宅が放火された。焼跡から専務(41歳)、妻(38歳)、次女(17歳)、長男(14歳)の計4人の他殺死体が発見される。

 

1966年7月4日

静岡県清水警察署が味噌製造工場および工場内従業員寮を捜索し、当時、従業員で元プロボクサーの袴田巖の部屋から極微量の血痕が付着したパジャマを押収。

 

1966年8月18日

静岡県警察が袴田を強盗殺人、放火、窃盗容疑で逮捕。

 

1966年9月6日

犯行を頑強に否認していた袴田が勾留期限3日前に一転自白。

 

1966年11月15日

静岡地裁の第1回公判で袴田が起訴事実を全面否認。以後一貫して無実を主張。

 

1967年8月31日

味噌製造工場の味噌タンク内から血染めの「5点の衣類」が発見される。

 

1980年12月12日

最高裁が判決訂正申立棄却決定送達。袴田の死刑確定。

 

2011年8月 第二次再審請求審において静岡地裁は事件当日にはいていたとされるズボンの他、5点の衣類の再鑑定をすることを決定。

 

2014年3月27日 – 静岡地裁(村山浩昭裁判長)が再審開始と、死刑及び拘置の執行停止を決定した。袴田は同日午後に東京拘置所から釈放された。

 

 

③裁判の主な争点

自白は強要されたものか。

 

任意性に関する争点 : 自白調書全45通のうち、裁判所は44通を強制的・威圧的な影響下での取調べによるもの等の理由で任意性を認めず証拠から排除したが、そのうちの2通の調書と、同日に取られ唯一証拠採用された検察官調書には任意性があるのかなど。

 

信用性に関する争点 : 自白によれば犯行着衣はパジャマだったが、1年後に現場付近で発見され、裁判所が犯行着衣と認定した「5点の衣類」については自白では全く触れられていない点など。

 

凶器とされているくり小刀で犯行は可能か。

逃走ルートとされた裏木戸からの逃走は可能か。

犯行着衣とされた「5点の衣類」は犯人である証拠か、警察の捏造か。弁護側は「サイズから見て被告人の着用は不可能」、検察は「1年間近く、味噌づけになってサイズが縮んだ」と主張している。2011年2月、弁護側により、ズボンについていたタブのアルファベットコードはサイズではなく色を示しているとして、警察が誤認若しくは故意に事実を無視した疑いが指摘された。袴田の実家を家宅捜査した際に犯行着衣と同じ共布を発見。これが犯行を裏付ける証拠として採用された。2010年9月に検察が一部開示した証拠を弁護側が検証したところ、共布発見の8日前と6日後の2度に渡り、捜査員がズボン製造元から同じ生地のサンプルを入手していたことが判明。弁護側はこの不自然な行動に「実家からの発見」を偽造した可能性があるとして2枚のサンプルの開示を要求、「検察側が示せないなら捏造の根拠になる」と主張している。

 

 

④取調べ・拷問

袴田への取調べは過酷をきわめ、炎天下で1日平均12時間、最長17時間にも及んだ。さらに取調べ室に便器を持ち込み、取調官の前で垂れ流しにさせる等した。

 

睡眠時も酒浸りの泥酔者の隣の部屋にわざと収容させ、その泥酔者にわざと大声を上げさせる等して一切の安眠もさせなかった。そして勾留期限がせまってくると取調べはさらに過酷をきわめ、朝、昼、深夜問わず、2、3人がかりで棍棒で殴る蹴るの取調べになっていき、袴田は勾留期限3日前に自供した。取調担当の刑事達も当初は3、4人だったのが後に10人近くになっている。

 

これらの違法行為については次々と冤罪を作り上げた事で知られる紅林麻雄警部の薫陶を受けた者たちが関わったとされている。

 

 

⑤検察側の証拠捏造疑惑

 

第2次請求審では、犯人が着ていたとされたシャツに付いた血液のDNA型が袴田元被告と一致しないとの鑑定結果が出た。村山裁判長は決定理由で、DNA鑑定結果を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する」と評価。事件の1年余り後に発見され、有罪の最有力証拠とされたシャツなどの衣類について「捜査機関によって捏造された疑いのある証拠によって有罪とされ、死刑の恐怖の下で拘束されてきた」と指摘した。

 

毎日新聞(荒木涼子)は、このことに加え、以下のような検察側の証拠捏造の疑惑を示唆した。70年代にあった控訴審での着用実験で、袴田さんは(使用していたとされる)ズボンが細すぎてはけなかった。だが、検察側は「タグの『B』の文字は84センチの『B4』サイズの意」などと言い張り、確定判決でもその通り認定された。しかし、これは捏造とも言える主張だった。「B」についてズボン製造業者が「色を示す」と説明した調書の存在が、今回の証拠開示で明らかになった。

袴田事件決定要旨

平成26年3月27日 静岡地方裁判所

 

決 定 要 旨

 

  有罪の言渡を受けた者 袴田 巌

 

主     文

 

  本件について再審を開始する。

  有罪の言渡を受けた者に対する死刑及び拘置の執行を停止する。

 

理 由 の 要 旨

 

第1 確定判決

 1 確定判決の存在と主文

   静岡地方裁判所昭和41年(わ)第329号住居侵入,強盗殺人,放火被告事件

   昭和43年9月11日判決宣告 主文は死刑

 

 2 確定判決の認定事実(概要)

   味噌製造会社工場の住み込み工員であった袴田巌(以下「袴田」という。)は,昭和41年6月30日,工場に隣接する会社の専務方に侵入し, 同人とその家族3名をくり小刀で突き刺した上,会社の売上現金等を強取し,被害者らに混合油を振り掛け放火して専務方を焼毀し,被害者4名を殺害した。

 

 3 確定判決の証拠構造

   確定判決が,袴田を犯人と認定する上で最も重視した証拠は,昭和42年8月に工場の味噌タンクから発見された5点の衣類 (白ステテコ,白半袖シヤツ,ネズミ色スポーツシャツ,鉄紺色ズボン及び緑色パシツ)である。 これらが,袴田が犯行時に着用していた衣類であると認定され,袴田が犯人と認められた。

 

第2 当裁判所の判断

 1 再審開始

  (1) 弁護人が提出した証拠と結論

    弁護人が提出した証拠,とりわけ,5点の衣類等のDNA鑑定関係の証拠及び5点の衣類の色に関する証拠は,新規性の要件を満たすものである。

    また,それは,最重要証拠であった5点の衣類が,袴田のものでも,犯行着衣でもなく, 後日ねつ造されたものであったとの疑いを生じさせるものである。 これらの新証拠の存在を前提にすれば,新旧証拠を総合して判断しても,5点の衣類がねつ造されたものであるとの疑いは払拭されないから, 5点の衣類により,袴田が犯人であると認めるには合理的な疑いが残り,他に袴田が犯人であることを認めるに足る証拠もない。 したがって,DNA鑑定関係の証拠等が確定審において提出されていれば,袴田が有罪との判断に到達していなかったものと認められる。 5点の衣類等のDNA鑑定関係の証拠及び5点の衣類の色に関する証拠は,刑事訴訟法435条8号の 「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」 に該当する。

    したがって,本件については再審を開始すべきである。

 

  (2) DNA鑑定関係の結果

    弁護側鑑定(弁護人推薦の鑑定人による鑑定)(STR型)の結果によれば,5点の衣類の血痕は, 袴田のものでも,被害者4人のものでもない可能性が相当程度認められる。

 

   ①検出されたアレル(対立遺伝子)は,対照試料(血痕とは別の場所から採取した試料)からは全くアレルが検出されていないこと等からみて, その大部分は血痕に由来する可能性が高い。

 

   ②確定判決応よれば,袴田の血痕とされる白半袖シャツの右肩の試料から検出されるアレルは,袴田のアレルと一致するはずであるのに, 検出されたアレルの半分以上が袴田のものと一致しておらず,そのうち1個は,2回目の検査で2回とも検出されているという再現性のあるものである。

     白半袖シャツ右肩の血痕は袴田のものではない蓋然性が高まった。

 

   ③被害者4名は夫婦とその子2人であるから,同じ座位に出現する4名のアレルは,遺伝子の性質上4種類以内である。 しかし,5点の衣類及び被害者着衣からは,袴田と同一のアレルを除いても,同じ座位に5種類以上のアレルが検出される結果が複数確認された。 5点の衣類には,被害者4名の血液以外の血液が付着している可能性が相当程度認められる。

 

   ④検察側鑑定(検察官鑑定の鑑定人による鑑定)STR型)の結果は,弁護側鑑定の結果と相当異なっている。 その理由は,確率効果によりアレルが出たり出なかったりすることがあること及び検査方法の違いによる可能性があり, 検査方法としては弁護側鑑定の方がより信頼性の高い方法を用いているから,検察側鑑定の結果によって, 弁護側鑑定の結果の信用性が央われることはない。 また,検察側鑑定(ミトコンドリア型)の結果は,白半袖シャツ右肩から袴田と一致しないミトコンドロアDNAが検出されている。 その余の試料からの検出結果を踏まえると,外来DNAによる汚染の可能性もないとは言えないが,この限度では,弁護側鑑定と整合的と評価できる。

 

  (3) 5点の衣類の色に関する評価

    弁護人らは,模造5点の衣類に血液を付着させ,それを味噌に入れて色の変化を見るという実験を行った。 その実験結果と発見当時の5点の衣類の色を比較すると,実験条件が厳密に同じものではないことを十分考慮しても, 5点の衣類の色は,味噌タンタ内の味噌の色と比較して不自然に薄い可能性が高い上,血痕の赤みも強すぎ, 長期間味噌の中に隠匿されていたにしては不自然である。

 

  (4) 5点の衣類に関するその他の新旧証拠の評価

   ①5点の衣類の発見経緯

     5点の衣類は,事件後の捜索や味噌の仕込みの際に発見されなかったのに,事件から1年以上経過して発見されており,不自然である。 また,そもそも,焼却するなどのより効果的な証拠隠滅手段もあったのだから, 袴田が早晩発見されることが予想される味噌タンク内に5点の衣類を隠匿すること自体が不自然である。

 

   ②ズボンのサイズ

     弁護人が提出した新証拠により,鉄紺色ズボンのサイズは,確定判決等の認定と異なり,細身用の 「Y体」 であったことが明らかになった。 袴田のウエストサイズと適合していなかった可能性があり.ズボンが袴田のものではなかったとの疑いに整合する。

 

   ③シャツの損傷と袴田の傷の位置関係

     白半袖シャツの損傷,ネズミ色スポーツシャツの損傷及び袴田の右上腕の傷の数が一致しておらず, 位置関係からしても,これらが,袴田が着用していた際に形成されたものではない可能性があり,ねつ造されたとの疑いに整合する。

 

   ④ズボンの端布の押収経緯

     鉄紺色ズボンの端布が袴田の実家から押収されたが,その際,一緒に押収された物は,捜索差押許可状の目的物となっていたバンドだけである。 本件は,極めて重大な事件であったから,5点の衣類に関係のありそうな物, すなわち袴田の着衣やこれに関連する物を広範に押収するのが自然であるのに,一見しただけでは事件との関連性が明らかでない端布を押収して, 他には目的物とされていたバンドしか差し押さえていないのは,不自然である。 加えて,5点の衣類と端布は,いわばセットの証拠とも言え,5点の衣類にねっ造の疑いがあれば,端布についても同様の疑いがあり, 袴田の実家から端布が出てきたことを装うために捜索差押を行ったとすれば,容易に説明が付く。

 

  (5) 5点の衣類以外についての進級証拠の総合評価

   念のため,確定判決で触れられている,袴田のパジャマ,袴田が知人女性に渡したとされる紙幣, 袴田の左手中指の切創等及び袴田の自白調書についても,新旧証拠を総合して検討を行った。

    これらの証拠は,袴田の犯人性を推認させる力がもともと限定的又は弱いものしかなく, DNA鑑定等の新証拠の影響でその証拠価値がほとんど失われるものもあり,自白調書も,それ自体証明力が弱く, その他の証拠を総合しても,袴田を犯人であると認定できるものでは全くない。

 

 2 執行停止

  再審を開始する以上,死刑の執行を停止するのは当然である。さらに,当裁判所は,刑事訴訟法448条2項により拘置の執行停止もできると解した上, 同条項に基づき,裁量により,死刑(絞首)のみならず,拘置の執行をも停止するのが相当であると判断した。

 袴田は,捜査機関によりねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ,極めて長期間死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきた。 無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかになった現在,これ以上,袴田に対する拘置を続けるのは耐え難いほど正義に反する状況にある。

参考)袴田巌さんの再審を求める会作成のパンフレット

わかりやすいです。