今市事件 冤罪事件である根拠
②DNAはおろか物証そのものがない
警察は、当初、被害者の手に付いていた「男のDNA」を犯人のものとみて捜査していた。ところが事件から3年半後、何とその男のDNAは栃木県警の捜査幹部のものであることが判明したのだ。
遺体発見現場は、茨城県内だったが、現場検証には栃木県警の捜査幹部も立ち会っており、その際に付着したとみられている。
さらに被害者の頭に付いていた髪の毛付きの粘着テープがある。女児の顔の鼻辺りをふさいでいたと供述したとされる布製の粘着テープの1片だ。これは犯人が付けた可能性が極めて高い重要な証拠だった。
しかし、ここでも警察は重大なミスを犯す。粘着テープからも鑑定を担当した科捜研職員のDNAを検出したのだ。捜査幹部のDNAに続く二度目の失態だった。
一審では、DNA鑑定について、このような警察の失態を隠すかのように重大な争点にならなかった。現に警察は、外部の大学にもDNA鑑定を依頼していたが、その結果について、一部しか弁護側に開示しなかった。控訴審で弁護側の依「(鑑定書は)トータルで8通あったはずなのに、一審ではそのうち3つしか出さない。4つ目のものは何かというと、事件当時は機動捜査隊長、実際この犯人逮捕というところで報道された時には、刑事部長になっている、その人のDNA型が検出されている」(「崩れたシナリオ ~検証・今市事件~」から テレビ朝日 2018年7月15日放送)頼を受け、結果を分析した専門家は以下のように言っている。
自白では、勝又さんは被害者を強姦したことになっている。しかし、以上のように被害者の遺体から勝又さんのDNAが発見されなかったのだ。DNAを残すことなく、強姦ができるものだろうか…。
徳島県警の科捜研でDNA鑑定を担当してきた藤田義彦氏は、勝又さん本人のDNAが検出されていないことが重要だと指摘する。常識で考えても、強姦された被害者から犯人のDNAが検出されないなどあり得ないはずだ。
藤田義彦氏
「触ったからと言って、(DNA型が)出るわけではないという理論は、やはりサイエンスではない」「被告人のDNAが付着していないんだから、それによってその人の犯行かどうかと、客観的な検査結果で判断すべきだと思いますね。」(「崩れたシナリオ ~検証・今市事件~」から テレビ朝日 2018年7月15日放送)
その一方で、勝又さんのDNAはおろか指紋や汗、その他精液、唾液、皮膚片なども全く被害者の遺体から発見されない一方で、正体不明の第三者のDNA型が、被害者頭部に貼り付けられていた粘着テープ(犯人が付けた可能性が極めて高い)から検出されている。
しかし、なぜか警察は、この第三者のDNAについて徹底した捜査していないようなのだ。
そして、あろうことか、一審では、裁判員に対し、勝又さんのDNAが全く発見されていないという事実は伏せられたまま判決は下されたのだ。何のために裁判員裁判をやっているのか・・・。こんなやり方で公正公平な裁判であったなどとは到底言えまい。
その一方で、勝又さんが逮捕された直後、マスコミから勝又さんが犯人であることを示す物的証拠があるかのような報道が相次いだ。その一つが勝又さんのパソコンから被害者の画像が見つかったという報道だ。画像があれば、決定的な物証となる。しかし、一審で出廷した警察官は「被害者に関する直接的なものは、見つけることができませんでした」(一審第2回公判)と述べたのである。
また、勝又さんは、被害者のランドセルについて、「はさみで切って捨てた」と供述していたが、マスコミで、そのランドセルが勝又さんの自宅近くに捨てられていたという報道があった。これを目撃した女性の証言は、集積所にランドセルが置いてあったというものだったが、いずれにしろ勝又さんの供述内容と異なる。そして、このランドセルも見つかっていない。
それ以外に勝又さんが自白している凶器のナイフや犯行時に使ったとされるスタンガン、また女児が下校中に身につけていた衣類や運動靴、黄色のベレー帽など遺留品は何一つ見つかっていない。
こうした状況の中、検察側が証拠としてあげたものに「Nシステム」と呼ばれる自動車ナンバー自動読取装置の記録がある。検察は、同記録から勝又さんが、殺害当日とされる12月2日未明から早朝にかけてNシステムがある3か所を通過したとし、これをもって勝又さんが遺体遺棄現場に向かって往復したと推認できるとした。しかし、裁判所は「推認力は限定的である」と証拠能力の乏しさについて言及したほか、ナンバーも不鮮明だったためか、これを法廷で裁判員に見せることもなかったのである。
また、勝又さんは殺人の取り調べ開始直後に、「事件」を起こしたことを謝罪する手紙を母親に送っている。主な内容として「自分で引き起こした事件で、家族に迷惑をかけてしまい、本当にごめんなさい」などの記載があった。検察はこの手紙記載の「事件」という言葉が女児殺害のことを意味するとし、有罪を主張した。
しかし、この手紙にはこの「事件」が女児殺害事件のことを示すと断定できる内容はなかったのである。つまりこの「事件」と言う言葉が、女児殺害事件のことなのか、それとも当初、勝又さんが逮捕された商標法違反事件なのか明確に記述されていなかった。
つまり「事件」という言葉だけの記載だったので、女児殺害のことを示すと言い切れないのだ。そしてあろうことか高裁でもこの母親に宛てた手紙を女児殺害事件の有罪の根拠と判断したのである。どうにでも読める、どうにでも解釈できる手紙が有罪の根拠にされてしまったのである。
この手紙について勝又さんは、法廷で以下のような驚くべき内容を証言している。
――当初、自身が定職に就かないことや商標法違反で家族を巻き込んだことへの謝罪を具体的に記載したが、留置担当の警察官に「事件について具体的に書いてはいけない」と言われ、書き直しを指示されたのだと――
これまた信じられない内容だ。これが真実なら「事件」という言葉が女児殺害を示すと主張するため、手紙を警察に都合良く書くように誘導された可能性があるということだ。とんでもないことだ。
以上からわかるように勝又さんが犯人であることを裏付ける物的証拠は無いのである。ここまで見てきた内容だけでも、どう考えても無罪判決が出て当然だと言わざるを得ない。