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布川事件”勝訴”の桜井昌司さん独白「自分としては当たり前じゃん!」

https://news.goo.ne.jp/article/dot/nation/dot-2019060100026.html

布川事件”勝訴”の桜井昌司さん独白「自分としては当たり前じゃん!」

 

 「弁護士さんたちも画期的な判決だと言ってびっくりしていましたが、自分としては『当たり前じゃん!』と思っていますよ」

 

 52年前に茨城県で起きた強盗殺人事件「布川事件」で、再審無罪が確定した桜井昌司さん(72)。今度は国家賠償請求訴訟で勝訴した。

 

 国と県に約1億9000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(市原義孝裁判長)は5月27日、約7600万円の支払いを命じたのだ。

 

 警察の捜査と、証拠開示を拒んだ検察官の対応を違法と認めた判決だ。原告の桜井さんは喜びを隠さないが、なお闘う姿勢を崩していない。

 

 改めて、桜井さんに話を聞いた。

 

「裁判官が大変勇気のある判決を下してくれたことには感謝しています。ただ、警察がウソを言ったり、検察官が証拠を隠したりすることが許されていいわけがありません」

 

 桜井さんと杉山卓男さん(2015年死去)は、茨城県警によって、一人暮らしの男性(当時62)を殺害し、現金を奪った犯人に仕立て上げられた。別件で逮捕されたうえで、身に覚えのない強殺事件で自白を強要された。

 

 今回の判決では、取り調べの警察官が、被害者宅付近で桜井さんらを見たと供述している者はいないのに「目撃証言がある」と言い、桜井さんの母が「早く自白するように」と言っているなどとウソをついたと認定している。

 

 桜井さんは当初、否認し続けたが、取り合ってもらえなかったという。
「無実の罪で留置場に入れられ、狭い取り調べ室で延々と『お前が犯人だ』と責められることすべてがつらかった。否認することは強大な力を持った相手とケンカをし続けることなんです。当時は知識がないから、いつまでその状態が続くかもわからない。人間って弱いから、目の前から逃げたくなる。それがウソの自白なんです」

 

 裁判では一貫して無実を訴えた。しかし、78年に最高裁で無期懲役が確定する。桜井さんと杉山さんの再審開始が確定したのは、2009年12月になってから。11年、ようやく無罪判決を勝ち取った。
 そもそも布川事件は被害者宅に残された指紋や毛髪、足跡など桜井さんらと一致する物的証拠はなかった。

 

 そうした中、桜井さんらの無罪を示す証拠が検察によって隠され続けてきたことは改めて非難されるべきだろう。

 

 桜井さんの自白では、殺害方法は両手で首を押さえつけて窒息死させた「扼殺」だったが、医師の『死体検案書』では死因を紐状のもので絞めた「絞殺」と推定していた。だが、捜査初期のあやふやな目撃証言の記録とともに検察官は開示しなかった。

 

 今回の判決は、検察も断罪している。

 

<検察官は公益の代表者として事案の真相を明らかにする職責を負っている>
<検察官の手持ち証拠のうち、裁判の結果に影響を及ぼすものについては、有利不利を問わずに法廷に出すべき義務を負う>

 

 開示拒否は違法と認定し、これらの違法行為がなければ、遅くとも2審判決(73年12月)で無罪判決が宣告され、直ちに釈放された可能性が高いと結論付けた。

 

 桜井さんが怒りを込めて言う。

 

「検察官は真実義務があるのに、それをないがしろにしてきた。今回、真っ直ぐに批判されて、検察は存在意義が問われていると思います。近年、冤罪事件が次々と明らかになって、ようやく目覚める裁判官が増えてきたと感じています」

 

 今年3月、桜井さんは、やはり再審無罪が確定した足利事件の菅谷正和さん、大阪・東住吉事件の青木恵子さんらとともに「冤罪犠牲者の会」を結成した。冤罪を起こさないための法整備を国会に働きかけていくという。

 

「警察官や検察官がウソをついたり、証拠を捏造したりするのは個人の責任が問われないと考えているからです。だから、個人の責任を問う必要があります。証拠の捏造や隠滅などができなくなるような法整備を国会議員に提案したい。また、再審を判断するための第三者機関『再審審査会』を作って、国民自身が冤罪を考えていくシステムが絶対に必要だと思います」

 

 国側は控訴するのかもしれないが、桜井さんは「自分は勝つことしか考えていないから」と笑った。あくまで前向きなのである。
(本誌・亀井洋志)