高まる精度、冤罪の危険も=刑事裁判のDNA鑑定・袴田事件
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高まる精度、冤罪の危険も=刑事裁判のDNA鑑定・袴田事件〔深層探訪〕
6/16(土) 8:25配信
時事通信
袴田事件の第2次再審請求即時抗告審で、東京高裁は袴田巌さん(82)の再審を認めない決定をした。静岡地裁の再審開始決定から4年余り。高裁は審理の大半をDNA型鑑定の検証に費やし、地裁と真逆の結論を導き出した。劣化試料の鑑定の難しさを浮き彫りにした格好だが、刑事裁判では新しい試料の鑑定で疑義が指摘されるケースもある。強力な証拠となる半面、鑑定が冤罪(えんざい)を生む危険性は否定できない。
東京高裁決定要旨=袴田事件
◇「有効性に疑問」
袴田事件で犯行時の着衣とされた半袖シャツなど5点の衣類は、事件翌年の1967年、現場近くのみそタンクから見つかった。大量の血痕が付着していたが、当時はDNA型鑑定の技術が存在せず、常温で保管された。
第1次請求審で不可能だった血痕の鑑定は、技術の進歩で2008年に始まった第2次請求審で実現。事件から40年以上が経過し、劣化した血痕からDNAを抽出するため、鑑定人の本田克也・筑波大教授は特殊な試薬「レクチン」を使った。
レクチンは血液型判定に一般的に使われる試薬だが、刑事裁判の証拠となるDNA型鑑定に使用されたのは初めてだった。このため、高裁は検察側推薦の専門家に委託して手法を検証。「レクチンにはDNA分解酵素が含まれており、手法の有効性に重大な疑問が存在する」と指摘した。
本田鑑定は地裁決定の最大の根拠で、地裁は県警の証拠捏造(ねつぞう)にまで言及したが、高裁は本田教授に対する不信をあらわに。「自らの判断に従って型判定図の表示を変え、正確性を疑われかねない行為をした」「本田教授のDNA混入も疑われるが、元データや実験ノートも消去されており、あまりに不自然だ」と批判した。弁護団の笹森学弁護士は「高裁は本田教授の尋問を行いながら、疑問について聞かずに決定を出した」と反論。最高裁への特別抗告を明言した。
◇捜査機関への不信
現在主流になっているDNA型鑑定の個人識別能力は、4兆7000億人に1人とされ、精度は極めて高い。「足利事件」や「東電女性社員殺害事件」などは、この最新技術が再審の扉を開いた。犯人か否かを判断する強力な決め手となる一方、捜査機関の鑑定に疑問を抱かせる事案も起きている。
鹿児島市で12年に起きた女性暴行事件も、その一つだ。二審の福岡高裁宮崎支部で行われた体液のDNA型鑑定で、被告の男性と別人の型が検出され、16年に逆転無罪が言い渡された。
宮崎支部判決は、鹿児島県警が捜査段階で鑑定を実施した際、別人の型が検出されたため、「鑑定不能だった」とする虚偽の鑑定書を作成した可能性を指摘。検察に対しても、支部での鑑定の後、裁判所に無断で再鑑定を試みたとし、「試料を保管する立場を利用して必要のない鑑定を行い、全く無意味に試料を使い切った」と非難した。
◇捜査員80人と照合
栃木県の女児が05年に殺害された事件では、遺体に付着した微物から検出されたDNA型が県警捜査幹部のものと一致。捜査の過程で混入したとみられ、捜査員ら約80人のDNA型と微物の型を照合する事態に発展した。しかし、照合を終えた今も、誰のものか分からない型が残されている。東京高裁で8月に控訴審判決が言い渡される予定だが、弁護側は「真犯人のDNA型の可能性がある」と主張している。
最高裁司法研修所が12年にまとめたDNA型鑑定の手引きは、「技術の限界を正しく理解することが不可欠」と強調した上で、証拠採取などの過程で捜査員らのDNAが混入しないよう厳正な管理を求めている。