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飯塚事件 状況証拠を過大評価 元東京高裁判事・門野博氏

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/392136/

 

状況証拠を過大評価 元東京高裁判事・門野博氏

 

2018年02月07日 06時00分

 
 飯塚事件の再審請求即時抗告審で「DNA型以外の状況証拠でも高度に立証されている」と判断した福岡高裁決定には疑問がある。DNAという強力な証拠に引きずられ、他の証拠も有罪方向にゆがめてしまう「心証の雪崩現象」の影響を受けているのではないか。

 

 裁判官は個別の証拠を検討した上で心証を決めるのではなく、最初に証拠全体を直観的に見て有罪か無罪かの心証を形成してしまうことが少なくない。この場合、自白やDNA型鑑定など強い証拠があると雪崩式にほかの証拠も次々と有罪方向に見えてきて、無意識にその証明力をかさ上げしてしまうことがある。

 

 DNA型鑑定が有罪認定の根拠の一つとなった飯塚事件の確定判決や、今回の決定にもこの雪崩現象の影響がうかがえる。DNA型鑑定以外の状況証拠も実際には問題を抱えている上、子細に見れば元死刑囚が「犯人であっても矛盾しない」と証明しているにすぎないのに、決定はこれらが有罪方向に働くと雄弁に語っただけだった。

 

 今やDNA型鑑定の証明力は失われ、目撃証言も内容が日を追って不自然に詳細化し、捜査員が元死刑囚の車を下見していた事実が判明した。捜査員の誘導が疑われるのは当然だ。元死刑囚の車から被害者と同じ血液型の血痕と尿痕が検出された▽被害者の衣服に付着していた繊維片は元死刑囚の車のシート繊維と一致する可能性が高い-などの証拠も証明力には限界があり、犯人と断定することまではできないはずだ。

 

 飯塚事件と同様に直接証拠がなかった大阪の母子殺害事件で最高裁は2010年4月、「被告が犯人でないとしたならば合理的に説明できない(あるいは少なくとも説明が極めて困難な)事実関係」が立証されなければならないと明言した。弱い状況証拠でも有罪としてきた従来の司法判断に警鐘を鳴らし、犯人であることの決定的な証拠がなければ有罪認定は許されないとする厳格な判断だ。この判例を踏まえ、飯塚事件でも直ちに再審を開始し、公開された法廷で改めて徹底的に審理すべきだろう。

 

2018/02/07付  西日本新聞朝刊